⬛︎ 呉村音楽帖「陽炎秘話」

制作当時、作詞家の吉田雅也が持ち込んだ歌詞をもとにレコーディングが始まった。

ところが、三東レコードのプロデューサー・松井は録音を聴くうちに、ある違和感に気づく。

歌い手の和泉清一は、伸びやかな声質が持ち味である一方で、得意な歌い回しに頼りすぎるあまり、どうしてもクセが強く出てしまうことがあった。実際、最初に収録された1番にはその悪癖が顕著に表れていた。

しかし、同じ曲でも2番の歌唱には不思議とクセが抜け、素直で力強い表現が残されていた。松井は即座に判断する。「この2番を正式な1番に据え直そう」。

大胆ともいえるこの決断が功を奏し、完成した楽曲は長寿主題歌として時代を超えて歌い継がれることとなった。

出典：「和泉清一 30年目の告白」（現春社）